第186章 海
見渡す限りどこまでも続く水。
深い濃紺のその水面は太陽の光を反射して輝きながら揺れている。
何もかもを包みこむような――――……
まるでナナの瞳だ。
――――ナナ、お前が目を輝かして夢見た “海” は確かにあった。
そしてこの先に――――……お前が夢見て……そしてそれを後悔すらしそうになった、俺達を悪魔だと言い死滅することを望む、 “外の世界” があるらしい。
この次々にいりくんで整理のできねぇ感情を何と呼べばいいのか、俺にはわからなかった。
ただ目の前に広がる海を見たその瞬間の心情は、知っていた。
――――そうだ、初めて地下街から出て、壁外調査に出た、門をくぐった先の抜けるような空。
あの時俺は、思ったんだ。
『悪くねぇ』と。
エイルがそこに辿り着くために俺を必要だと言った “自由の空” に続いているのであろうこの空は――――……驚くほど広くて高くて……美しくて……。
お前が輝かせていた目には、これが見えていたのかと……初めて少しだけ、理解できた。
そして今、同じことを思う。
お前の瞳のような海は、驚くほど広くて深くて……美しくて。
今度こそ、お前の目にちゃんと映してやりたい。
そんな私情でしかないことを頭の中に巡らせながら、目の前の海と空にただただ圧倒され、じっとその先の――――…… “海” が、遥か遠くで空と交わっているその場所を、見ていた。
「――――そこに、いるのか……?」
――――その空の青はまるでエルヴィンが俺を見透かしてしまう時の瞳のようで……ああお前はいつまでも……そこから見てるんだなと思うと……相変わらず嫌な野郎だと思う。