第185章 空音
「でもね、亡くなったみたいなの……気の毒に……。偉業なんて、成し遂げなくても、いいと思うわ……私は………。」
「………マリア、さ……ん…………。」
「偉くならなくてもいいの。ただ無事に帰って来てくれたら、それで。母親って……そういうものなのよ。」
――――涙を我慢、できなかった。
カルラさんと重なるマリアさんのその言葉は、まぎれもなくエルヴィンをちゃんと息子だと認識して――――……、どこか危険なところへ行くと言った、エルヴィンの最後の言葉もちゃんと胸に止めていて……、それなのに……その新聞に綴られた事実だけを、受け入れられずに他の人だと思い込んで――――……幸せな世界で、愛する息子を待ち続けている。
「――――マリア、さん……っ……!」
私が蹲って嗚咽を交えて泣いてしまったことに、少し動揺しながらマリアさんは私の頭を撫でてくれた。
「――――どうしたの……?」
言うべきか。
言わないべきか。
私はどうすればいいのだろう。
いくつかのエルヴィンの遺品も持って来た。
全てを話して――――……遺品を渡したほうがいいのだろう、本当は。
――――でも……、どうしても……言えない……。
だってきっと、あそこまで色々と分かるほどに回復してきているマリアさんが……その新聞を見た時、きっと一瞬――――……理解したはずなんだ。
そして絶望して、苦しくて苦しくて…… “別の人” だと、思い込んだんだと……思うから。またその絶望を……味わわせることが果たして、最善なのだろうか………。
きっと―――――――……
エルヴィンなら……… “優しい嘘” を、つく気がした。