第185章 空音
「――――そ、の……人を、知っていて………。」
「あら、そうなの……?それは悲しかったわね……。」
苦し紛れに取り繕った私の言葉を信じて、マリアさんはまた優しく頭を撫でてくれた。
「――――そうやって人の死を悲しめる優しいあなたが、私のエルヴィンの側にいてくれて本当に嬉しいわ。――――ねぇ、エルヴィンはいつ帰ってくるか知っている……?」
マリアさんのその問に、顔を上げて精一杯の笑顔を向ける。
嘘だなんて、微塵も感じさせない、絶対に。
「来年には、帰って来ますよ。」
「そう、ならそれまで元気でいなくちゃね。」
マリアさんはホッとしたように、柔らかく笑った。
それから他愛もない話をして、真実を伏せたまま……また来年に必ず来ると約束を交わして、私は病院を発った。
沈む夕陽の反対側に昇り始めた月に向かって、小さく懺悔する。
「――――エルヴィン……優しい嘘は、赦してくれる……?」
エルヴィンと練習した “上手な嘘” がこんな役に立つなんて……切なくて苦しくて、胸を押さえる。
来年、きっとまたマリアさんを見舞おう。
――――きっとその時は、本当のことを言える。マリアさんに一筋の光を、見せてあげられるかもしれない。
私はまた一筋頬を伝った涙を手で拭って、帰路についた。