第185章 空音
今日マリアさんに会いに一人で行くことも、直前までリヴァイさんは反対した。でも私が固い意志を持っていると分かって、折れて……くれた。
幸い今日は体調がいい。
マリアさんには事前に手紙を送っていたけど、読んでくれているだろうか。会って……何を話せばいいのか少し怖い気持ちもある。――――愛する我が子を失った喪失感と絶望に飲まれるであろうマリアさんに……何を言えばいい?
ただ側に寄り添ってあげることも、ずっとずっと続けられるわけでもない。
「――――長旅ご苦労さまでした、着きましたよ。」
「ありがとうございます。あの、一つ教えてください。」
「はい?」
「この辺りにお花屋さんはありませんか?」
「あぁ、それならあっちに――――……。」
御者の男性から聞いたお花屋さんで、マリアさんの笑顔を想像しながら小さな花束を買う。病院について、その部屋まで恐る恐る歩を進める。
深呼吸しながら……扉を開いた。
そこには変わらない美しい白髪を、窓から吹き込む優しい風に揺らして……ベッドに座って本を読んでいるマリアさんの姿があった。
あぁまるで、本当に聖母のようだと……私は見惚れていた。
マリアさんはすぐに私に気付くと、少女のように嬉しそうに、可憐な笑顔を見せてくれた。
「あら、ナナさん。」
「こんにちは、マリアさん。」
「来てくれて嬉しいわ!ね、座って?見せたいものがあるの!」
マリアさんはうきうきとした表情で私に対して、ベッドの脇の椅子を指し示した。あまりに楽しそうに話されるから、一度花束を膝に置いてまず話を聞こうと側に寄る。
すると、ベッドの脇からマリアさんは新聞を取り出した。
その新聞を私に見せながら、あどけなく笑う。
「ねぇ見て、私の息子と同じ名前の人がいたのよ?」
「――――………。」
その新聞は、ウォール・マリア奪還と……その偉業を成し遂げた調査兵団団長の死を――――……伝えるものだった。