第185章 空音
「――――お嬢さん、外を見てご覧なさい、とても景色がいいですよ。」
私が神妙な面持ちでここ数か月のことを思い出しながら俯いていたからか、馬車の手綱を握る御者の男性が窓の外の景色が美しいと教えてくれた。
窓から外を見ると、蒼い空を鳥が囀りながら横切った。その向こうには……暖かな日差しを受けてキラキラと美しく輝く緑が見える。……そこは思い出深い……クローバーが一面に広がる丘だ。
エルヴィンが誕生日を祝ってくれたあの丘。
そして――――……いつか夢で見たあの場面が、頭の中に再び蘇る。クローバーの丘でエルヴィンに手を伸ばした。けれど……彼は背を向けたまま私から離れて行ってしまった。
――――そして最後に振り返って言ったあの言葉を思い出す。
『――――ナナ。俺は君たちの幸せを心から願ってる。だから―――――………。』
――――ああそうか、だからあなたは言ったのか。 “君たちの幸せ” を願ってるって。それなのに私はこんなにも胸中が不安と葛藤で渦巻いていて……そんな自分にまた嫌気がさす。
普通ならこんな気持ちにならないんだろう、私が……人として未熟だから――――……そんな、珍しくマイナスな気持ちがぐるぐると心臓を締めつけて苦しくさせ、頭を巡る血液を遮断するように思考を奪う。
「――――リヴァイさん………。」
――――ちゃんと話さなくちゃ。
あなたは……どう、思っているのだろう。
ここ最近はリヴァイさんが多忙で一緒に部屋に帰れないことが多い。私が眠ってから帰ってきて――――……話せないまま翌朝、背中に感じる鼓動と温もりで目を覚ます。
朝もバタバタと、簡単に食事をしてすぐに兵舎に戻る。
―――――私といることが、また彼を苦しめているのかもしれない。
知るのが怖い。
けれど……知らないまま時が経って……このまま離れ離れになるのは、もっと怖い。