第185章 空音
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―――――ずっと行けなかったところへ、やっと行く決意ができた。
初夏の日差しを受けながら馬車に揺られて、彼のお母さんを訪ねるその道中にこれまでのことを思い返す。
エルヴィンの心の内を少し知って……それを受け止めて心の整理が少しできた頃には、春と呼べる季節が過ぎようとしていた。エルヴィンの死をマリアさんに……ちゃんと伝えないといけない。
マリアさんの事を思うとずっと怖くて……訪ねるのはもっと先にしようと思っていたけれど……でも、ずっと帰って来ない愛する我が子を待ち続けるその時間ももしかしたらとても辛いかもしれなくて。勇気を出して、会いに行くことに決めた。
あとは――――そう、私が動ける間に……、できることはしておかないといけない。
そんな思いも……あった。
ロイとちゃんと話ができてから数回経ったある定期診察に行く直前、私は一度執務中に倒れた。
大事には至らなかったし、お医者様の見立てではただの貧血とのことだった。けれど……この病でまた貧血という症状が出てきているのは……それは、今まで効果が見られていたビタミンAの薬が効かなくなってきている可能性があるということを示していた。
不安な気持ちを抱えつつ、定期診察ではいつもよりしっかりと調べて、診てもらうことにした。
――――もちろん私が倒れた後の王都への移動だったから、当たり前にリヴァイさんが一緒に来てくれて……まったく過保護なんだから……と思いつつも、やっぱり……心強くて、嬉しかった。