第185章 空音
「慣れ合う気はない。――――俺は生き残ってしまった俺の役割を果たすために……ここにいるだけだ。」
「――――チッ、そうかよ。好きにしろよ。」
――――フロックと腹を割って話せることはきっとない。そう思った。
サシャが言ったとおり、アーチさんも随分打ち解けて、必要最低限しか話さなかったのが、徐々にお互いを知るための話も時折――――するようになった。――――けどやっぱり俺にとって……同じ訓練兵団を出て、数々の死線を一緒に潜り抜けてきたコニーやサシャ、アルミン、ミカサ、エレン……こいつらが……一番、心から信頼できる “仲間” だ。
「この槌の出番も無くなる日が来れば……この壁内人類の暮らせる土地がまた増えて……また、狩りができる……。」
珍しく控えめな声でサシャが呟いた。
「狩り?――――ああ、肉が食いたいって話か。」
「―――ん、まぁそうなんですけど……、ナナさんに食べさせてあげたら……病気、治るかなあって。」
「食べさせる?何を?」
ふふ、と少し笑ってナナさんのことを話すサシャに、アルミンが問いかけた。
「動物の内臓。」
「えっ?!」
「おい、そんな変なもんナナさんに食わすなよ。」
「違いますよ、何かチラッと言ってました。難しくてよくわからなかったけど……、ナナさんの病気に効く成分が、動物の内臓に含まれる成分と同じだとか。それに美味しいんですよ?肝臓とか!」
動物の内臓?肝臓?想像もしたことのない食い物だ。思わず舌を出して嫌悪の表情を見せると、サシャは口を尖らした。
「うえっ。」
「なんですかジャン、失礼ですよ。」
「――――離団ってことは……また帰ってきてくれる。きっと。」
アルミンが希望を込めて、空を見上げて言った。
「ナナさんも見たいはずだから……。海と、その先の――――……外の世界。」
俺とサシャもまた、同じ空を見上げる。
その胸の内に、それぞれの想いを抱いて。