第185章 空音
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「――――なにもない。意味がわからん、無駄な詮索だ。」
「――――……どうもお前は信用ならねえんだよ。」
「信用してくれなんて頼んでない。」
――――とことんムカつくことを言う奴だ、こいつは。
それに……ずっと前から、フロックのナナさんを見る目が気に食わない。
――――あれはウォール・マリア奪還の報告の為に女王と兵団がトロスト区に来た時だ。
俺は大会議室に足を踏み入れた時に見た。ナナさんがフロックに目線をやった瞬間に、フロックはナナさんになにかを言おうと近づこうとしたが……ナナさんはそれを拒否するように、怯えたように顔を背けたところを。
気まずく伏せられた目を見て、俺はナナさんに声をかけた。するとナナさんは安堵したような顔で俺を見た。
それからナナさんが兵長と暮らし始めて、一緒に兵舎から帰る後ろ姿を見るフロックのその目が……、エレンと接するナナさんを見ているその目が……なんとも嫌な感じがするんだ。
――――つい、口からその核心に迫る言葉が漏れ出てしまった。――――ただ想いを寄せているだとか、そんなものならそこまで気にならねぇが……、違うんだ。なにか、むしろ憎しみや悪意に似た目だ。
「お前だって一応調査兵団だろうが。信用してくれなんて頼んでないとか言う奴と一緒に命張る気になれねえんだよ!」
「――――そうですよフロック。あのツンツンしてたアーチさんだって、最近じゃよく話もしてくれるし……仲間だって、思ってくれてるなって感じるのに……。」
サシャも思うところがあったのか、続けて口に出した。アルミンはただ……困った、と言う顔で俺達の事を見ていた。