第185章 空音
「あぁわかります私も!なんでしょうね、成長期だからお腹空いてるんじゃないですか?」
能天気なサシャがあはは、と笑い飛ばすけど、僕もエレンの変化は心配していた。だからジャンが全てを言わなくても、ナナさんの離団を憂う気持ちが分かった。
「――――もちろんアルミンとミカサがいるからいいんだけどよ……、でも何かの時にエレンを説得して導ける人はナナさんだと思うんだよな。……これからの情勢もまだ安泰とは言えねぇ中で……あの人は調査兵団にいて欲しい……。」
「――――そうだね……。」
「このエロがっぱは、人妻にまで懸想してるんですか?いやらしいですね。」
「は?!誰がだよ!っつーかナナさんは人妻じゃねぇだろ。」
「いやもうあれは兵長の妻でしょう?どう見ても!」
サシャが興奮気味に話す。
確かにナナさんと兵長は兵舎を出て一緒に暮らしているらしい。そして……兵長とナナさん2人の醸し出す空気はただただ穏やかで愛し合ってるということが傍から見ていてもわかるほどだ。
――――ナナさんの、エルヴィン団長を失った傷を……兵長が側で支えているんだろうと思う。エルヴィン団長を生かさずに僕を生かす選択をしたのはリヴァイ兵長で……ナナさんが傷つくことも承知で……でも僕を生かすことを選んだ。
そこにナナさんを手中に収める私欲がなかったのだろうか?と僅かに疑問に思った瞬間もあったけど……
兵長とエルヴィン団長の間には僕達には到底知りえない深い何かがあるんだろうなと……そしてナナさんと兵長の間にも同じように特別な何かがあるんだろうなとぼんやりと思う。
「人妻のナナさんか……エロいな……。」
「うるさいですよエロがっぱ。ナナさんを汚さないでください。あの人はただの悪女の女神です。」
「お前の言い草もたいがいだろ。」
ジャンとサシャの軽口を横耳で聞きながら、交換作業を進める。すると、ずっと黙っていたフロックが口を開いた。
「うるせぇなお前ら、ちゃんとやれよ。」
「――――そう言えばフロック……、お前……ナナさんになんかやましいことあるだろ?」
ジャンの一言に、フロックはピクッとまた体を強張らせてジャンを睨み付けた。