第185章 空音
僕は以前より、ナナさんのことをよく見るようになった。なぜかと聞かれたら明確にはわからないけれど……エルヴィン団長でなく僕が生き残ったことを後悔させないように生きるという思いと……エルヴィン団長が愛した、そしてエレンやミカサの家族に近しいナナさんには、笑っていて欲しいから。
「結構消耗してんなぁ。それだけ巨人を討伐できてるってことか。」
その日は初夏の日差しが照り付ける、雲一つない快晴の日だった。トロスト区壁上で巨人討伐装置の槌の交換作業に当たっていた時、ジャンが槌の先端部分の消耗具合を見ながら言った。
「――――だね。効果が目に見えていて良い事なのかもしれないけど……、元々は人間だったと思うと……やっぱり複雑だ。」
「――――そう、だな……。」
今ここにコニーはいない。
僕とジャンとサシャとフロックの4人で来ている。母親が巨人化させられて、下手をすればコニーの母親もこの装置により討伐されていたかもしれないという事実はあまりに残酷だから……。そこに気付いて、この任務のメンバーからコニーを外すようにハンジ団長に相談をしてくれたのはナナさんだと聞いた。
「――――なぁアルミン、そう言えばナナさん離団するって聞いたか?」
ジャンの言葉に、僕だけでなくサシャも反応した。
――――フロックはピクッと反応したのに、平然を装ったように見えた。
「ああ聞きましたよ!なんか、療養に専念するんですってね。……病気が……思わしくないんでしょうか……、元気に見えますけど……無理、してるんですかねぇ……。」
「うん、僕もそう聞いた。」
「――――そっか。」
「ジャン、どうかした?」
なぜかナナさんの離団に難色を示すジャンに尋ねると、ジャンは僅かに目を伏せて言った。
「――――いや、なんか……最近エレンの様子が以前に増しておかしい事が増えたからよ……。思いつめてるっていうか……、なんか、しでかしそうな危うさが……。」
「――――うん……。」