第16章 姉弟
「近頃の調査兵団は、どのような様子なのですか?つい最近、壁外調査に出られたとか。来年のウォール・マリア奪還計画の情報収集が目的だったのでしょう?」
「ええ、約半日の調査で奪還計画のひとつの拠点になりえる集落の調査と、その付近の巨人の生息状況を把握しました。」
「………そこの、ナナさんも調査に?」
ロイがチラリと目線を私に向ける。
「……いえ、私はまだ訓練中の身。まだ壁外に出られる状態ではないので。」
「へぇ………。」
高そうな食器に、シルバーのカラトリーがカチャカチャと鳴る。見目美しくさぞかし豪華な食事のはずが、あまりに重く苦しい話に、私は味を感じることが出来ないほどだった。
「………兵士の、死亡率は?」
一瞬空気がシン…と静まり返った。
「………20%弱と言ったところです。」
「そうですか。訓練を受けてきた兵士の方々が、半日の調査で2割死ぬ………。僕は巨人に遭遇したことがないのですが、どうやら予想よりもはるかに強敵のようだ………。」
ロイは顎に指を添え、目線を上にやって考え込んだ。
「別件で話が進んでいると思いますが、一般市民の中から、兵士同様の訓練を受けさせる人数はだいたいどれくらいになるのですか?」
「………私の一存では決まることはないですが、装備を準備できる限界値として考えても、千人に満たないでしょうね。」
「…………馬の数にも限りがある。ほとんどの一般市民は、馬にも乗れず、立体機動装置もつけず、巨人の闊歩する平野を歩くわけだ。」
「…………。」
想像しただけでも絶望的な絵に、私は震えた。