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【進撃の巨人】片翼のきみと

第184章 空蝉 ※




それから本格的な夏が来て――――……

青々とした葉の色が陰り始める頃。






俺はナナの乗る馬車を見送った。

―――――ナナは、不安だろうに、寂しいだろうに……そんな表情を一切見せず………ただ目に涙を溜めた切ない笑顔を残して、調査兵団を離れた。




―――――もうこの部屋にナナが戻ることはきっとないのだろうとわかっていても……ナナの笑顔が、匂いが……ここにいた証が各所に残るこの “巣”を――――……どうしても手放す事ができなかった。



調査兵団への人員補填が年明けに行われ、編入者と新兵の受け入れが始まる。それに合わせて兵舎も元のウォール・ローゼ内の本部へと戻す。

俺もこの部屋に住むことは叶わないのに……それでも、残しておきたかった。



離れ離れになっても、どんな時でも共に目指す “還る” 場所が。





――――トロスト区の巨大な槌から巨人を潰す音が聞こえなくなったのは、雪の降り積もる頃だった。ナナが俺の側で歌を歌わない誕生日はただただ何事も無かったように過ぎていった。だが、数日後にナナからの手紙が届いて――――……真っ白な封筒と便箋には俺の誕生日を祝う言葉が大切に綴られている。

目を手紙の一番下段まで降ろして、最後にそこに綴られていた事柄に胸をなでおろしたと同時に――――……運命とは因果なものだと……やっぱり神様とやらは意地が悪ぃんじゃねぇかと思った。





積もった雪が溶け出す頃、兵団はウォール・マリア内の巨人は掃討されたと発表した。

そして――――……シガンシナ区を拠点とする住民の入植が許可されたのはトロスト区襲撃から1年が経過した頃だった。俺達調査兵団は新たな兵士達を迎え入れて新たな幹部・分隊を組んで、壁外調査を計画していた。





「――――最初に壁が破壊されてから……6年か。」





ハンジが感慨深そうに、団長室で椅子に座ったまま伸びをした。――――エルヴィンが座っていたあの椅子にハンジがついているのは……なんとなくまだ、見慣れねぇ。


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