第184章 空蝉 ※
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――――気付けばウォール・マリア奪還からもう2ヶ月が経とうとしていた。
トロスト区の外門にエレンの硬質化能力で作った自動巨人伐採の装置の鎖を巻き取る音は相変わらず1日に何度かはしている。が、徐々に徐々に、その作動回数が減って来ているのは明白だった。
ウォール・マリア内の巨人の数が随分と減ってきているのだろう。この装置のけたたましく鎖を巻き上げる音がしなくなった頃には――――……ウォール・マリアへの住民の入植も始まる。
領土を無くして食い物に困っていた民衆が……また平和を享受し、毎日幸せに生きること……それが実現する日はそう遠くはない。
―――――だが、実現したその平和が突如として外の世界から総攻撃を受けて死滅する日もまた――――……遠いという保証はない。明日、この俺達の日常は無に帰すのかもしれねぇと思うと、ナナと過ごす時間をより大事にしたいと思う。そんな想いをナナも感じていたのか、日に日にナナは元々の……エルヴィンが生きていた頃の笑顔で笑うようになった。
――――ナナとの日々は、幸せだった。
肉欲を満たせるから、という理由じゃねぇ。ただの小さな日常の一つ一つも……ナナと同じ時を過ごしているというだけでまるでこの世界に色が増えるように、色んな事を知った。
――――とても小さいこと……、例えば、風呂上りに髪を拭いてやると喜ぶ……といったことや、皿洗いが苦手ですぐに皿やらカップやらを割るところ。
機嫌が良いと、なにかをしながら必ず歌を歌うところ。
そして―――夜中、俺の目が覚めて、何かを飲もうとベッドから上体を起こした途端、ナナは “行かないで” と言いたいのか、俺の腕にしがみついて放さない。
――――クソ可愛いことをすんじゃねぇよと思いつつ、また襲いかかりたくなる衝動を……そのあどけない寝顔を見ながら髪を梳いてなんとか耐える。
そんな夜も……悪くなかった。