第184章 空蝉 ※
「必要あります……っ……、お願い、リヴァイ、さ……!」
「――――待てるかよ。」
「やだ、でもっ……!」
「――――なら折衷案として風呂場で、だな。」
「えっ!!ちょっ、あっ!降ろしてっ……!」
「もう風呂も湧かしてある。ほら行くぞ。」
ナナの軽い身体をひょい、と担ぎ上げる。ふと、あることに気付いた。
「――――お前……。」
「な、んですか……、降ろして……下さい……!」
「――――ちょっと重くなったな。」
「!!!」
ナナは俺に片腕でガキのように肩に担ぎ上げられたまま、とてつもなくショックを受けたような顔をしてから、涙目で顔を真っ赤にして俺の身体をぽかぽかと小さく握りしめた拳で叩く。
「ふ、太ったとかいちいち言わないでくださいっ!!あと、やだ、重いから降ろして!!いやっっ!!」
「暴れんな、こら……、違ぇよ、そういう意味じゃ……。」
「リヴァイさんがクッキーやらお菓子やらばっかり私に買い与えるからじゃないですか……!」
「……だからそういう意味じゃね……っ、おいっ……、暴れんな……!」
「リヴァイさん、デリカシーなさすぎですっ…!」
ナナがバタバタと身体を捩る。
――――いや、太ったとかそう言う意味で言ったんじゃねぇんだが……むしろずっと抱く度に細く軽くなっていくのが心配で……良かったと、いい意味で安心したと言いたかったんだが……。
女は無駄に太るだとかそういう事を気にするんだな。
「―――むしろもう少し重くならねぇと、お前の体が心配で、だな……。」
「…………。」
ナナが恨めしそうな目で唇を尖らしている。
「――――……ふ………。」
なぜか、思わず笑みが零れてしまう。
俺が笑ったからか、さっきまでの不機嫌な顔が嘘のように、ナナはきょとんとしながら俺を見つめている。
「――――幸せだ。――――こんな、なんでもねぇくだらない時間さえも愛おしい。――――お前がいるだけで。」
思わず俺が零した本音を聞いたナナはたまらなく嬉しそうに、ふにゃ、と笑んだ。