第184章 空蝉 ※
たかが2日不在にしていただけで何を言ってんだ、と……言いたくても言えなかった。
俺も同じ思いだったからだ。
それに――――何かあったんだろう、おそらく……ナナの心を揺さぶる何かが。ナナが自ら話さない限り、俺は聞かない。ぽんぽんとナナの頭をあやすように撫でる。
「――――ああ、そうだな。」
ナナの髪を撫でた手をそのまま頬に寄せると、いつものように……ナナは猫のように、目を閉じてすり、とその手に顔をすり寄せた。
「おかえり、ナナ。」
ゆっくりと持ち上げられた銀糸の睫毛の下から、夜空のような瞳が覗いて……俺を映す。そしてその瞳は細められて、柔らかな微笑みが俺に向けられる。
「……ただいま帰りました、リヴァイさん……。」
あぁ、俺は重症だ。
自覚してる。
ナナに触れると、もうそれだけで理性が仕事をしなくなる。この部屋に居る間のほとんどをナナを抱いてベッドで過ごしている。――――まさに “巣” だ。
――――ナナも時折少しの抵抗を見せるが、結局は俺を受け入れる。
――――そういや、ここに越して来てから2日もナナを抱いてねぇ日なんてなかった。
「――――食いたい。」
「あ、はい私も晩御飯はまだです。食べに行きますか?まだどこか開いて………。」
欲情により鼓動がいつもより更に早く打つ。
俺はおそらく獣のような目をしていたはずなのに、俺の『食いたい』に対して飯のことだと思うナナはやはりどこか抜けていて、俺はため息をついて呆れつつも……やはりこういうところも可愛いんだと、惚気に近いことを思っている自分にまた呆れてしまう。
「――――違う。察しろ、馬鹿野郎。」
耳元でその意味を正すと、ようやく理解したナナが耳を真っ赤にして俺から体を離そうと試みる。
「――――いや、あの……長距離移動してきたところなのでお風呂……っ……!」
「必要ない。」
もう何度目だ、このやりとりは。外耳に舌を這わせて囁くと、ぶる、とナナが身震いして身体を粟立たせる。