第183章 白状
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僕を見上げた姉さんの目は、いつもの姉さんの瞳の色じゃなかったように見えた。
暗い、ひどく暗くて……輝きのない、のっぺりと奥行きのない紺色の瞳が僕をじっと見つめる。
――――それが怖いと思った。
「――――ごめ……っ……!」
「――――私には、私の……っ、想いも、世界も……!描く未来も、ある……!」
「――――…っ………。」
「――――ロイのことは愛してるし大事だけど……、私は……ロイのお人形じゃ、ない……。」
――――姉さんが、泣く。
笑ってて欲しいのに、僕はなぜいつも泣かせてしまうのか……。でも、だからいじけたって何にもならない。間違ったなら謝って、何度でも、赦してもらえるまで謝って、失った信頼は今度は僕が取り返すんだ。
そうやって……壊れては直して、つぎはぎだらけでもいい。
上辺だけじゃなく、ちゃんと心を繋げるために。あの日義兄さんが言った言葉が頭の中を駆け巡る。何度も、何度も。
『ナナを愛しているなら、理解する努力をしてみるといい。――――君には君の価値観と考え方があって、ナナにはナナの価値観と考え方がある。無理矢理自分の思い通りに事を運ぼうとするな。そんなことを繰り返していたら――――、いつかまた、君はナナの笑顔を失うぞ。』
あの時点での義兄さんは具体的に僕が何をしていたのかは、知っているはずがなかったのに……僕の言動から推察したんだろう、わざわざ忠告をしてくれた。
――――あの人には、お見通しだった。
忠告を守らなかった僕は今まさに、また姉さんの笑顔を失おうとしている。
――――なんで死んじゃったの?
――――あなたほど姉さんを任せるに相応しい男はいなかった。
あなたを失った姉さんは、これからどう生きていけばいいの?
そんなに義兄さんを恋しく思ったところで帰って来てくれるはずがない。
僕はまた姉さんが何かを押さえて我慢しているその瞳に目を合わせて、頭を下げた。