第182章 泡沫②
「えっ、照れてます?」
「照れてない!」
「大切な人からの贈り物ですか?」
「……………。」
「そうなんだ!」
「………食いつくな。」
ボルツマンさんははぁ、とため息をついて、恥ずかしそうに目を逸らしながら少しだけ、話してくれた。
「――――何十年ぶりかに………、出て行った元妻の誕生日に……花を、贈った。その、お返し、だそうだ……。」
「…………!」
「私の趣味じゃないがな、貰ったものを捨てるわけにもいかないから……。」
言い訳を並べながら後頭部をぽりぽりと掻くような仕草は、初めて見た。ボルツマンさんは、それ以上話さなかった。
けれど……もし、私や……オーウェンズ家と深く関わり始めたことが、彼の行動を少し変えたなら……、奥さんを愛していたことを思い出して、花を贈る行動を起こすという “変化” があったのなら、嬉しくて。
私は心からの笑顔をボルツマンさんに向けた。
「とってもとっても、よく似合ってます!!」
「………そう、か……。」
――――こうやって紡がれて、変化していく。
ボルツマンさんを敵視して、どう戦おうかと戦々恐々としていた数年前が、嘘のように。
――――甘っちょろいことだってまた、エルヴィンとリヴァイさんは笑うかもしれないけれど……人対巨人では……言葉も意志も通じずにただ殺し合うしかなかったけれど、 “人対人” なのなら……叶わなかった “話し合い、知り合い、赦しあい、認め合う“ ことが……できるんじゃないかと、戦い、殺し合う選択肢の他を模索できる可能性を見出して、微かな希望を抱く。
「――――さて、では私は……これで。」
また少しだけ前を向く。その為に、私は立ちあがった。
「――――間を空け過ぎずにまた来い。そして……ロイとも、ちゃんと話をしろよ。」
「はい、そのつもりで今日……来ました。」
「そうか。――――相変わらずお前は……逞しいな。」
「――――嬉しい、褒め言葉です。」
私は病院を発って、今度こそロイと話すために………、ロイの研究所へ向かった。