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【進撃の巨人】片翼のきみと

第182章 泡沫②




「いいな、今までで一番進行が緩やかだ。この薬を飲み続けることでこの状態を維持していけるのであれば……普段通りの生活を難なくできるかもしれんな。――――すごい発見だ。」

「薬、引き続き服用します。そしてちゃんと、定期健診も来ます。」

「当たり前だ。」

「ふふ、嬉しい……!」

「ああ、そうだな。」



ボルツマンさんが珍しく、笑顔だと分かるほどの笑みを零した。――――ああこの人もまた、根っからの医師だ。この人は病院経営の手腕こそ確かだけれど、そこだけじゃない。

医療を金儲けの手段としてしか見ていなければ、不治の病だと言われた難病に一筋の光が見えた時に……こんな嬉しそうな顔をするはずがない。



「ボルツマンさん。」

「なんだ。」

「あなたを尊敬しています。」

「は……、なんだ急に。」

「――――父があなたと共に病院を創り上げたかった理由が、分かる気がするんです。父はきっと、自分が失いそうになった医師としての誇りを……きっとあなたのおかげで失わずに済んだ。」

「―――リカルドは元々、才能に溢れていた。――――ただ両親の期待が重すぎた。それだけだ。決して愚かな男ではなかった。」



――――お父様はかつて「医療はビジネスだ」と言った。――――でも……あの時、疫病対策のためにロイと私がお父様に掛け合った時、やってみろと……沢山の命を救うために財を投げ打つことに対して、背中を押してくれた。

お父様もまた悩んで、迷って、自分を見失って、見つけて………そうやって生きてきたんだろう。私はその中身をきっと半分も……知らない。だから私はこのお父様の戦友とこうして話す中でお父様の生き方を見つけることができて……―――とても、嬉しいんだ。



「――――ありがとう……。」



ボルツマンさんの目を見て心から、感謝を伝える。ふと、その襟元に違和感を抱いた。



「あ。」

「ん?なんだ。」

「ネクタイ……、珍しいですね。いつも無地でシックなものなのに……。」



ボルツマンさんはいつも、紺や青系の無地のネクタイしか締めないのに、今日は控えめだけれど薄いチェックの柄のネクタイだ。――――白髪交じりの髪に、チェックの中に含まれる細いえんじ色の線が映えて……とても素敵。

私がそのネクタイをじっと見つめると、ボルツマンさんが僅かに動揺して、目を背けた。


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