第182章 泡沫②
「――――エルヴィン、私……やっと少し笑えるように、なったよ。」
流れる綿のように真白な雲を太陽光が透かして、地上に光が降り注ぐ。――――あの日エルヴィンがくれたヴェールを通して、柔らかな光が私に降り注いだみたいに。
「そういえばエルヴィンは……料理はできた?私が料理ができないことはバレてたのに、不公平だよね。――――リヴァイさんはね、教えてくれるの。お料理と……、雑巾の絞り方。それと……思い出させてくれた。温かい、笑い方……。」
風が、かた、と窓を鳴らす音だけで……いつか聞こえたエルヴィンの声は、聞こえない。
「――――あの世とこの世は繋いでくれないみたい。私たちの、心の声……。――――でも、大丈夫。いつだってあなたはここに。」
胸に光るネックレスをぎゅっと握りしめる。
「――――この素晴らしい世界を失いたくないから………、私たちはまだきっと、戦い続けるんだ。――――見ててね、エルヴィン。」
それからまた窓の外を眺めながら、いくつもの歌を歌った。
ワーナーさんやエルヴィンに、届けばいい。そう願いながら、心を込めて。
しばらくして院長室の扉が開いて、ボルツマンさんが帰ってきた。扉が開いた時のその表情から、経過がいいんだとわかる。
穏やかな、顔をしていた。
向かい合わせに椅子に掛けて、結果のことを色々と聞いて、私もこのビタミンAという成分がどう働いているのかなど、2人で考察を交えて色々と話しをした。けれど研究で明らかにしていない、臨床実験もしていない、むしろ私が初の実験に近しいものなわけで、おいそれと大々的に研究を始めるわけにもいかない。
ボルツマンさんの名前に傷をつけたり、余計な敵を作らないためにも……、まだもう少しデータを集めていかないと。