第182章 泡沫②
朝食を終えて、私は馬で王都を目指した。
ついて来なくていいと言ったんだけど、それでもリヴァイさんはウォール・シーナまで一緒に馬で駆けてくれた。『ついでだ』と言っていたけど……ついでの用事なんてないくせに……リヴァイさんもたいがい嘘が下手なんだなと、微笑ましく思う。
王都についてすぐ、ボルツマンさんのところを訪ねると、ボルツマンさんは私を一目見て薬の効果が見られる、と口にした。
「薬、効いているんじゃないか?顔色が全然違うな。元気そうだ。」
「そうですか?やっぱり……!なんとなく、体調もいいんです。食事も少しずつ、食べられていますし。」
「それはなによりだ。検査でもいい結果が出ればいいんだが。」
「はい、宜しくお願いします。」
しばらく検査着のまま院長室で待たせてもらう。
ボルツマンさんはもちろん多忙だから、私を置いて部屋を出て行った。窓の外には、夏の気配すら感じそうな強い日差しを受けた木々の緑が、青々と煌めいている。
「………I see the green………。」
なんて素晴らしい世界だなんて、今まではあまり……思ったことはなかったけれど……、愛しい人を、仲間を亡くして……自分の命に限りを見て……、そしてリヴァイさんとの限られた時間をを一日一日大切に過ごす中で、ふと感じる。
この青々とした木々を見た時
咲き誇る花々が風に揺れる時
窓から差し込む朝日が、愛しい人の寝顔を照らしている時
“月が見ている” という少しの脅迫観念から、 “見守ってくれている” と思えるようになった時の……星空の中、月光が揺らめいて降り注ぐような美しい光景。
それを、もう一人の……私を包んでくれる愛しい人の体温を感じながら2人で眺めるその刹那。
「――――なんて、世界は素晴らしいのだろう………。」
もちろん世界は残酷で。弱肉強食で。
私たちの命は明日をも知れない状況で。
――――でも、だからこそ思えるんだ、『この世界は美しくて、素晴らしい』と。
――――だから、明日も明後日もその先も、あなたと生きていきたいんだと。
窓の外の蒼天に、エルヴィンを想う。