第182章 泡沫②
「………お、もい……!」
鉄製のフライパンは小ぶりでもすごく重くて、両手で持たないととても扱えない。そんな私を見て、リヴァイさんがベッドから起きて服を着て、こちらに近付いて来た。私の後ろから左手でひょい、とフライパンを取ると、右手で私の腰をしっかりと抱いている。
「――――……ありがとうございます、卵、入れますね。」
「まだだろ、ちゃんと熱してからじゃねぇとうまく焼けねぇ。料理の基本だろうが。」
「――――そうなんですか。」
振り返って尊敬の眼差しを向けると、リヴァイさんはフライパンの方に目をやって、ふっと小さく笑った。
「――――覚えりゃいい、これから。教えてやる。料理も、な。」
「…………!」
その『料理も』の“も”が指しているものに顔が真っ赤になる。もう十分なほど色々教え込まれてる気がするのだけど……まだあるのだろうか……、体……もつかな、なんてぐるぐると変な事を考えていると、フライパンからパチッと水分が飛んだ音がした。
「いいぞ、卵割れ。」
「はい。」
後ろから半抱きにされたまま、コンコンと殻にひびを入れて卵を割ろうとした瞬間、リヴァイさんが悪戯に私の耳を食んで舐めた。
「――――ひぁっ?!」
思わず手に力が入って、フライパンの真上で卵の殻がパリ、と割れて……黄身が壊れた卵が、ずるりとフライパンに落ちて……じゅぅ、と音が鳴る。
その中には、殻の破片が混ざっている。
「――――下手くそ。」
「誰のせい――――っ……ん!」
物申そうと振り返ったところを狙っていたかのように唇を塞がれた。
――――ずるい。
いつもこうやって私が怒っている時も、とにかく甘やかすような蕩けるようなキスをしては……有無を言わさないようにしてしまう。