第181章 泡沫
「――――本当に大丈夫なんだろうな。」
「大丈夫ですってば。最近顔色もいいでしょう?ごはんも食べてますよ。少しずつ。」
「まぁ……そうだな。わかった。くれぐれも気を付けて行けよ。」
「はい!」
俺が承諾すると、ナナはぱあっと明るくにこにこと笑った。するとナナは俺の頬に手をやって、煽情的に指先を性感帯に触れるようにつつ、と滑らせた。
「――――キス、して……。」
――――朗らかに笑ったかと思えば、急に女の顔でキスをねだる。俺はどうにも抗えないまま、この悪い女の言う通りに唇を重ねて、その頬から耳へ、首筋へとキスを散らしていく。
「――――お前の肌は………甘くて美味いな。」
「………もっと、食べて……。」
「――――望むところだ。」
ナナの首筋から鎖骨へと舌を滑らせると、ナナの体がぴく、と反応し始める。
「――――エルヴィンへの想いを……確かにこの胸に遺しているのに……、あなたの腕の中で……“幸せ”だと感じるなんて、いけないこと、なのに――――………。」
ナナが息を弾ませながら、潤んだ目と紅潮した頬の、欲情した女の顔を俺に向ける。
「――――イケナイコトのほうが気持ちいいもんだろ。」
「――――イケナイコト、キモチイイコト、したい………。」
「お前がしたくないと言ってもヤるつもりだ、俺は。」
ナナの手から紅茶のカップを引き取ってテーブルに置いて、ナナの背中をゆっくりとベッドに沈める。
お前が言った。
この場所は、翼を休める巣箱だと。
負った傷を舐め合って、庇い合って、埋め合うだけのこの時間が――――……俺にとっては何にも代えがたい幸せな時間だった。
「――――溺れろ、何も考えずに。快楽と、俺に。」
「――――リヴァイさんのくれる愛はいつも……泣きたいくらいに、優しい………。」
ナナの大きな目に俺が映る。
零れる美しい滴の一滴一滴にも、俺が映る。
そこは――――まるで2人だけの世界だ。