第181章 泡沫
「――――あれ、どうしたんですか?兄弟喧嘩ですか?」
突然かけられた明るい声のほうに顔を向けると、そこには濡れた髪にタオルをかけた、サシャとミカサが立っていた。
「お風呂、男子の時間になりましたよ!サッシュ分隊長。」
「ああ……。」
「なんですか、隠しておいたおやつでも弟に食べられたんですか?」
サシャがカラカラと軽快に笑っている。
なにがそんな面白いんだか……、まったく調査兵団はやっぱり変な奴の集まりだ。
「――――サシャ、サッシュ分隊長は確かによく食べるけど、そこまで子供じゃない。」
「そう?結構感情的な人だと思ってました!」
「そんな理由でキレるかよ。」
兄ちゃんははあ、と息を吐いて掴んでいた俺の胸ぐらを放した。
「――――あ、ナナさんと兵長!」
「……どこ?」
「ほら、あそこ。」
「サシャ……目が良すぎる。どこ。」
「獲物をねらうには、必要ですからね!」
サシャが遠目に消えかかる兵長とナナさんの後ろ姿を捕らえた。なんて視力してんだ、野生動物かよ……。
そう小さく嗤いそうになる口元を隠すために顎をひいて、少し俯いた。
「本当に、良かったです。」
窓の外、遠く小さな2人の影を見つめてサシャがとてもとても嬉しそうに、笑みを零した。
「――――兵長がいてくれたら、ナナさんはきっとまた心から笑える。」
「――――うん。悔しいけど兵長には敵わない。」
サシャとミカサが発した言葉にまた俺は、驚いた。
――――誰も、責めない。
彼女の心変わりを……行動を、受け入れしようとしている。これが……仲間ってやつなのかと少し新しい発見をしたような心地だった。