第181章 泡沫
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日が沈んでしばらくしてからアーチと一緒に風呂に入ろうと廊下を歩いていると、リヴァイ兵長とナナが連れ立って兵舎を出て行く後ろ姿を兵舎の窓から見たアーチが、言葉を漏らした。
「――――なぁ兄ちゃん。」
「あん?」
「ナナさんは……団長の女なんじゃなかったっけ。」
「………まぁ、前はな。」
「さっそく鞍替えしてるのってどうなの?ふしだらな女だな……。」
アーチがはぁっと、ナナを軽蔑するような目で見てため息をついた。俺はそれが――――……とても腹立たしかった。
「………そういう言い方やめろよ。」
「だってそうだろ。」
「――――お前はなんも知らねぇだろうが。ナナのことも……エルヴィン団長や……リヴァイ兵長のことも。」
「……知らないけど、前の男が死んだからって次の男に安易に移った尻軽女だってことはわかる。」
「……やめろって、言ってんだろ。」
「兵長も兵長だろ。すぐに心変わりするような女のどこがいいんだ――――……、ああ、まぁ見た目はいいから……性欲の発散にはちょうどいいってとこか。」
アーチのその心ない言葉に俺はカッとなって、アーチの胸ぐらを掴んだ。
「――――それ以上言うなら、お前でも赦さねぇぞ……!」
「――――っ……なんだよ……!」
「――――想像してみろよ、今ここに生きてるのが俺じゃなくリンファだったら……!お前は……俺が死んだことに泣き暮らすリンファが安息を求めて誰かに……っ、お前に寄りかかってきたら、同じように “尻軽” だって言えんのか……?!」
「…………!」
俺が憤慨した様子に、一瞬、アーチの目が不安に揺らいだ。
――――そう言えば俺は、ここまでアーチに本気で怒りをぶつけたことはないかもしれない。