第181章 泡沫
「――――ナナさんの笑顔を取り戻せるのはきっと兵長なんだろうと思うんです。私はナナさんのことが好きです。……また心から笑えるなら、兵長の元に傷を癒しに還っても、いいじゃないですか。ねぇ?」
「――――……そう、いうもの、なのかな……。」
――――食べ物以外のことに興味があるなんて、驚いた。他人のことに……ましてや恋愛事情などまるで興味ないんじゃないかと思っていたけど……サシャとナナの間に、私の知らない何かがあって……、きっと兵長とナナの間にも……私の知らない何かがあるのかと……サシャから、気付かされた。
でもそれだけじゃない……私の心の奥底が妙に落ち着かないのは、エレンが――――……勲章授与式のあの日から様子がおかしいこともある。
ナナを目で追う回数が増えた。
でも……その目線は前のような幼い恋心のそれとは全く違って……、むしろ苛立っていたり……何かひどく悩ましい物を抱えているような顔をするから。
――――どうしたのと聞いても、話しては……くれないけれど………。
「――――ミカサは一人で考えすぎですよ。」
俯いた私に、サシャは浴槽から器用に手を水鉄砲のようにして水しぶきを私に向かって飛ばして来る。
「………そう、かな……。」
「もう少し楽に行きましょう?まぁまぁ絶望的な状況ですしね!振り切ってしまえばいいんですよ!!いっそエレンに迫ってみたらどうです?」
「――――ばか。」
「あはは!」
――――サシャとあまり深く話したこともなかったけど……サシャも確かに少しずつ変化していて………。
私は……、体は強く鍛えられても……私自身の心はいつまでもあの日の……山小屋での事件の日に止まったまま。強くならなきゃ、エレンを守らなきゃ、それしか………なくて……、エレンも、アルミンも変化してる……、じゃあ、私は――――………?
そんな混沌とした頭をぷるぷると振って水気を飛ばして、答えのでないもどかしい想いを胸に抱えたまま、浴場を後にした。