第181章 泡沫
「サシャ、傷はもういいの?」
「ええ、もう随分治りましたよ!ほら、お湯に浸かっても染みないくらいに。」
サシャは誰も浴槽にいないのをいいことに、ざばん!と勢いよく湯に浸かった。……お湯は貴重だからあまり零さないように入れと散々言われているのに、困った子だ。
「でもまだナナに時々診てもらってるんでしょう?」
「そう!ナナさんにまんまと餌付けされてもうて……かしくぃ人だわぁ。」
はぁあ、とため息を零しているけれど、どこかサシャは嬉しそうに見える。サシャの本当の自分を少しずつ、ナナが引き出しているのかと思うと……私はそれがとてもすごい事だと思うし、同時に……嬉しい。
「――――そう言えばナナさん、リヴァイ兵長とかけおちしたんですよね?!」
お湯に浸かっていたサシャが、ざばっと身体を乗り出して私に興奮気味に問う。
「かけおち……って言うの?あれは……。兵長が無理矢理連れ込んでるんだと私は思ってるけど。」
エルヴィン団長とナナがどれだけ惹かれ合って、特別な存在同士でいたかは……私にだって見てればわかった。だからエルヴィン団長とアルミン、どちらを生かすか迫られたあの時……私は少し思った。
兵長は、ナナをエルヴィン団長から奪い返したいんじゃないかって。――――だから……最終的に、私たちの意志に沿ったんじゃないかって。
だから――――……、ナナのことを無理矢理、兵長が連れ去って閉じ込めてるんじゃないかと……思ってる。
「――――無理矢理じゃ、ないと思いますよ?」
「え………。」
サシャはここ最近のナナのことを思い出すように、目線を上に上げながら……嬉しそうに話した。
「だって……エルヴィン団長を失ってからのナナさんは……顔は、笑ってるけど……目に光がなくて……、“生きてるお人形”みたいだったなぁって。」
「――――………。」
「それがだんだん前のナナさんに少しずつ、戻って来たみたいで……特に最近……一緒に暮らし始めたって聞いてから。」
「――――よく見てるんだね、ナナのこと。」
「――――『あなたのままでいい』って、言ってくれたんです。」
サシャは照れたように笑った。