第16章 姉弟
私は今日も夕食を取ったあと、エルヴィン団長の待つ団長室へ向かった。
「エルヴィン団長、ナナです。」
「あぁ、入ってくれ。」
「失礼します。」
いつも美しく整えられたエルヴィン団長の机が、珍しく煩雑になっている。
エルヴィン団長の補佐に就くようになって、いくつかわかったことがある。エルヴィン団長の部屋が乱れるときは、忙しいからでもなく、心が荒れているからでもない。
逆だ。
片付けが追いつかないほどにワクワクしたり、夢中になっている時。無理難題ばかりのウォール・マリア奪還計画をどうしてやろうかと、ワクワクしているのだろうか。
「すまない、散らかっているな。」
「いえ、手伝います。」
私は床にまで広げられた資料を集めていく。
「明日だが、午後四時に発とうと思う。準備は大丈夫かな?」
「はい。」
「……ドレスコードは特にないが、君はどうする?ワンピースやイブニングドレスを着るなら、馬車を手配しようか。」
「いえ、兵服で参ります。兵士、ナナ・エイルとして。」
「ふふ、頼もしいな。」
エルヴィン団長はにこやかに笑った。その時、団長室のドアが鳴った。
「エルヴィン、俺だ。」
「あぁ、入ってかまわない。」