第180章 蜜月 ※
髪を撫でていると、ナナがぴく、と一瞬動いた。
「――――ッ…………ン………。」
苦しそうに何かの言葉の欠片を発して、震える手を伸ばし、その手は宙を彷徨う。
うっすらと開いたナナの目からは、また涙が零れていた。その手を取って火傷痕の残る指先にキスをすると、ナナが俺のほうに瞳を動かして俺を認識した。
視線が絡んだ途端に、ナナは堪えきれない涙に顔をくしゃ、と歪ませながら身体を起こして、俺の腕の中に飛び込んできた。
「――――リヴァイ……っ、さ……、リ、ヴァイ……さん……っ……!」
「――――どうした。」
「――――すき……。」
「知ってる。なんだ、怖い夢でも見たのか?」
「――――………。」
ナナは無言で俺の腕の中で小さく肩をすくめた。
その仕草は、肯定の仕草だ。
――――またエルヴィンや……仲間を失う夢を見たのか。
ナナの小さく震えるその身体にブランケットをかけて、包み込むようにして抱く。
「震えてるのは寒いからか。それとも、怖いのか?」
「――――……リヴァイさんがいないと、寒くて……怖い………。」
弱ったナナは、まるで昔のエイルの頃よりも幼い少女のような顔をする時がある。俺なしでは生きられないとでもいうような脆さと儚さは、俺の中にまだしつこく残る歪な欲望を満たしていく。
「――――行か……ないで、置いて、行かないで……。」
「行かねぇよ、どこにも。」
頬に掠るようにキスをして、耳元で安心しろと、大丈夫だと言い聞かせるように囁くと、ナナは子猫のように俺の首筋に顔をすり、と寄せてくる。