第180章 蜜月 ※
「誰が甘えん坊だ。」
「可愛いです。」
ナナが少し振り返りながら器用に手を後ろに向けてよしよしと俺の頭を撫でる。
「やめろ、俺が可愛いとか目がイカれてんじゃねぇか。」
「可愛いですよ。――――愛しい人は、容姿や口の悪さや粗暴さも関係なく、可愛く見えちゃうものなんですね。」
「お前俺に喧嘩売れるようになったのか?それもエルヴィンの悪影響だな。」
「――――エルヴィンも、可愛かっ――――……。」
ぽろっと零したその言葉に、ナナはしまった、と言った顔で俯いた。
「――――あ、あの、しますか?今日も……する、なら……私、お風呂に入って……。」
気まずい空気を何とかしようと話題を変えようとしながら俺の腕を解こうと身体をひねる。
だがそんなことは赦さない。
またぎゅっと腕に閉じ込めて、耳元で囁く。
「――――エルヴィンがどうした?言えよ。聞かせろ。」
「――――なんでも、ないです……。」
「言え。」
「――――いや……。」
「言わせる。」
「――――だめ……。」
いつもいつも俺の努力を無下にしやがるこの悪い女に思い知らせてやろうと、少しの苛立ちを意地悪く言葉に変える。
「――――言って、思い出せ。あいつのことを。そして痛感しろ。もうその温もりは永遠に感じることなどできないと。」
「――――………。」
「お前が流す涙を拭ってくれることもないと。」
「――――いじわる、ですね……。」
ナナは頭を垂れて、ふ、と小さく嘲笑した。
「お前の涙を拭えるのは誰だ?」
「――――リヴァイ、さん……。」
「お前は誰のものにしてくれと言った?」
「――――リヴァイ……さん……。」
「お前の冷たい体を抱いて、体温を分けてやれるのは誰だ?」
「――――リヴァイ……さん……。」
その耳穴を犯すように、低く欲を纏わせた声で囁く。