第179章 巣箱 ※
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2人共荷物はほとんどない。
兵服と、数えるほどの僅かな私服と……リヴァイさんはお酒や紅茶、私は大事な医学書やその他の本。エルヴィンから借りている本もそう。
本当にそれだけの……転居とは思えない少ない荷物を持って、調整日にあの巣箱のような部屋に移った。
前回は日が暮れていたからあまり気付かなかったけれど、やっぱりしばらく人が住んでいなかった部屋だからあちこちにホコリが溜まっていて、よく見れば窓の鍵が壊れていたり、床の板が一部はがれかかっていたり……手を加えなければならなそうだ。
「――――ちっ……、まずは掃除からだな。」
「はい。」
掃き掃除をして、バケツに水を汲んで雑巾を絞る。
――――あぁまるで、あの日に帰って来たみたい。
調査兵団に入団して、最初にした仕事が……リヴァイ兵士長の執務室をこうして、一緒に掃除することだった。雑巾も満足に絞れなくて……リヴァイさんを呆れさせてしまったっけ。そんなことを思い出しながら、また雑巾を絞る。
兵士長の執務室も、団長室もよく掃除をしたな。
これも“変化”。
私が雑巾を絞れるようになって、掃除もできるようになった。すると私が絞った雑巾をひょい、とリヴァイさんが奪って……いつの日かとまったく同じように、またバケツの上でそれを絞った。……案の定濯いだばかりかと疑うほど雑巾からぼたぼたと滴が落ちて……その先で、リヴァイさんと目が合った。
「――――すごいです。」
「――――お前の腕力は成長しねぇのか?」
「違いますよ、リヴァイさんが成長―――――……。」
リヴァイさんが呆れ顔でもう一度ぎゅぎゅっと雑巾を絞ると……小さく、ビリッと何かが裂ける音がした。
「…………。」
「…………。」
2人できょとんとした後、リヴァイさんが雑巾を広げてみると……裂かれたように中央が少し、破れている。