第179章 巣箱 ※
大通りから喧騒を避けるように少し逸れて路地に入った先……、この街にしては大きな一軒家の横に、後付けされたように二階へと続く外階段がある。その階段を上がったところの扉を鍵で開ける。くすんだ銅褐色のドアノブを引くと、きぃ、と音を立ててその部屋に風を通した。
「―――入れ。」
「………はい。」
ナナの髪を揺らした風が、その部屋に舞い込む。光る鉱石を利用して作った明るいランプ2つで照らせば、薄暗くなりかけの時間でも十分部屋の様子はわかる。
高くはない天井。居住場所としては今の俺達の私室と変わらねぇくらいの、決して広くない、荷物を置いて食卓を置けば、2人で寝るスペースを確保するには体を寄せ合うしかないくらいだ。
その奥には飾りばかりのような小さく質素なキッチンと、更に奥にトイレがある、ただそれだけだ。貸家の男に聞いたのは、ここは商売をやっていた一家が住んでいて……、身寄りのない従業員を一人住まわせていた、その部屋だったらしい。だがトロスト区襲撃時に一家の主が死に、空き家のまま貸家に売られたそうだ。こんな妙な作りの家を買う奴も借りる奴もいなくて、俺達に貸して僅かでも採算をとろうって魂胆だろう。
「――――ちっ、さすがに狭すぎだろ。」
「いいじゃないですか。」
「――――あ?」
「………風が舞い込んで……私たちが羽を休める場所にちょうどいい……。」
「風呂もねぇのはごめんだ。」
「すぐそこに浴場があるじゃないですか。兵舎で入って帰ってもいいですし……食事も済ませてくれば、ここはもう眠るだけの巣箱です。」
「…………。」
「秘密基地みたい。」