第179章 巣箱 ※
「何かありましたか……?」
「――――ほら。」
手を差し出すと、ナナは一瞬目を見開いてその濃紺の瞳に躊躇の色を見せた。
迷っているんだろう。
俺と2人で生活することがエルヴィンへの裏切りにならないのか、本当にいいのかと。
迷っていてもいい。
エルヴィンのことを吹っ切れていなくても……エルヴィンが嫉妬するなら、俺がエルヴィンを黙らせてやる。
ナナは俺の手をじっと、揺れる瞳で見つめながら……僅かに、切なく目を細めた。
「――――………。」
「――――来い、ナナ。」
俺の一言に、ナナはパッと顔を上げた。
降参したようなその眉の下がった、柔和な顔は……“あなたにはどうやっても、敵わない”とでも、言いたそうだ。
静かに目を閉じて、再びその目を開いたその顔は……俺が守りたいと思った、あの地下街の日々で見せたのと変わらない、柔らかな笑顔だ。
「――――はい、リヴァイさん……。」
ナナは俺の手を取って、小さなその手で俺の手をきゅ、と握った。
その手をまたぎゅ、と強く握り返して――――……夕日が落ちた、夜の帳が降りかけている黄昏の街を歩いた。