第178章 羽化
「――――まぁいいや。とにかく中に入って、話をしよう。」
「う、うん……わかっ、た………。」
真っ赤になってふらふらするエミリーの手を引いて、久方ぶりに研究所の鍵を開けて扉を開いた。
研究所に足を踏み入れてすぐ、丁寧に両手で扉を閉めて鍵をかけているエミリーが振り返ったその瞬間に、また抱きしめてしまう。だって姉さんよりも少しふにふにしていて、抱き心地がいい枕みたいだから。
――――なんだか癒されるということに、気付いてしまった。
「――――ロ、イ……く―――――……。」
今度こそその小さくて震える唇に、そっと、触れたか触れないか、というキスをする。
――――キスがこんなに、心臓が爆発しそうになるくらいの激しい動悸を伴うものなんだということも……初めて知った。
「――――君が好きだ。多分……、ちゃんと好きだ。」
僕の言葉に、エミリーは笑った。
「………ちゃんとって………なに………。」
「――――僕は正しい恋心ってものが、わからないから。」
「………正しいも間違いも……きっとないよ。ロイ君の恋心は、ロイ君だけのものだから。」
「――――なら、もう一回していい?」
「――――……うれ、し、い………。」
子供がじゃれ合うような、触れるだけのキスを一度交わして―――……
僕は僕の居場所を、温かいもう一つの還る場所を、優しく抱きしめる事が出来て………名前のつけられない、温かくて切なくて、激しくて……でも決して不快じゃないその感情が自分の中に生まれたことに、動揺していた。
色んな感情が爆発的に芽吹いて、戸惑いと共に涙として溢れ出たその滴を……エミリーには見せないように、さっと拭ったことが………
バレてないといいんだけど。