第178章 羽化
――――なんなのこの可愛い生き物。
えっ、ちょっと待って、それでなくても昨日今日で未知の感情が色々掘り起こされて多少の混乱を来たしているのに、また心臓がどくんと跳ねて……未知の感情が、沸き起こる。
――――到底言葉にできそうにないけど、とりあえずこういう時はキスをしたらいいのかな。喜ぶかな……エミリーは。
それに僕も……して、みたい………。
エミリーの顔をむぎゅっと掴んで、唇を寄せようとすると……またしても意外な反応を返された。
「――――節操なしなの?!」
「えっ。」
エミリーの手が、僕との間に壁を作った。
「………いや今の流れはこうでしょ、なに拒否してんの?」
「………だって………!おかしいじゃない!」
「おかしいってなにが。」
――――僕がおかしいのはエミリーのせいだ。そう、若干イライラしながら目を細めてエミリーを睨む。
「―――ロイくんは別に私のことが好きじゃないのに、そういうことだけするのは……おかしいじゃない……!」
「――――いや好きだし。」
「――――………。」
「――――………。」
鳩が豆鉄砲を喰らった顔というのはこんな顔なんだろうな、という顔を、エミリーはしていた。
「え。」
「好きじゃなけりゃ、2人きりの研究所を手伝わせたりしないよ。好きでもない女と2人きりとか面倒しかないじゃん。」
「え。」
「可愛いって思ってなきゃ、抱きしめたりしない。」
「え、え、待って……あたま、ぐるぐるしてきた………。」
「だから――――………。」
エミリーは最大級に困り眉毛をさらに下げて、顔と……耳まで真っ赤にして……涙目で………、僕はその様子を観察していた。
興奮と、歓喜と……戸惑いと、若干の怯え。
――――可愛いな、と………思うんだ。
そんなエミリーが、かけがえのない存在なんだと……やっと、気付いた。