第178章 羽化
僕にいつものように、「馬鹿じゃないの」とか、「犬みたい」とか……言われると思ったんだろう。
――――いや実際そう、ちょっとは思ったけど。
それ以上に溢れるこの温かい気持ちは、未知のもので……僕は気付けば小さなエミリーを、その腕の中に抱きしめていた。
「――――えっ……?!」
「――――ありがとうエミリー、ただいま。」
「――――………。」
小さく囁いた僕の言葉に、エミリーはまた俯いて、泣いた。
「………お、かえり……!ロイ、くん………。」
「――――ごめん。ちゃんと、話をする。君とも――――……姉さんとも。」
「うん………、うん…………!」
エミリーは小さく何度も頷いて、溢れる涙を手で拭う。
拭いきれない涙が、前髪の横の少し長く垂れたブラウンの髪にかかってキラリと光を弾くのを指で掬って、エミリーの肩に手をやって、抱きしめていた腕を解いた。さすがに往来でいつまでも抱き合ってるなんて、恥ずかしいにもほどがある。
「―――中、入ろう――――……え。」
――――――思いがけなかった。
僕は腕を解いて体を離したのに、エミリーがまた、強く強く僕に抱きついて子供のように、僕の胸に顔を埋めている……。
僕は目を丸くした。
えっ、何が起きた?
エミリーが僕に抱きつくなんて、そんな度胸あるなんて予想外だ。
「――――なにしてんの?」
「――――好き………。」
「ああもうそれは知ってるから………。」
また泣きっ面での告白だ。
こればっかりだなエミリーは。
そう思って呆れていると、エミリーが顔を上げて僕を見た。
――――満面の笑みで。
「――――大好き!!」