第178章 羽化
翌朝、ハルが作ってくれたふわふわのオムレツと、僕の起床に合わせて焼き上げられたパンと……母が淹れてくれた紅茶。
――――僕は今までで一番美味しい朝食を食べた。
身体に力が漲るみたいで、なんだか少しだけ前向きになれそうで……エミリーと対峙することに怖さもあるのに、でもそれでもいつもより足取りは軽く、屋敷を出て研究所へ向かった。
研究所にはもう1週間ほど帰っていなかったのに。
その扉の前に悲し気な表情で佇むエミリーの姿があった。
―――あぁもう、やっぱり馬鹿だ。
どうせ毎日来てたんだ。
僕を心配して。
そして帰って来なくて落胆しては、それでも翌日も来て……。
僕が姿を現したら、どんな表情をするんだろう。
喜ぶんだろう、でもきっと僕はその顔に――――……また、イライラしてしまうんだ。
「――――――!!」
エミリーの目の前の通りに馬車を停めた。
その僕の乗った馬車を見てエミリーは信じられない、良かった、と喜びと安堵の涙を流した。
この涙を見ると、僕はなぜだか素直になれなくて……やっぱりちょっとした意地悪を、言ってしまう。
馬車から降りると……顔を手で覆って俯くエミリーに声をかけた。
「なに泣いてんの。こんな往来でさ。」
「………だって……!――――良かった………!帰って、来て、くれて……!」
「学校は?いつも夕方からしか来ないのに……今日は何で朝からいるのさ。」
「今日は……休講、で……だから……ここに、来たくて……。」
「―――僕が来なかったら、朝からずっと夜まで待つつもりだったの?」
「――――………。」
エミリーは恥ずかしそうにカァッと頬を染めて、また俯いた。