第178章 羽化
母さんとの話を終えて、いい匂いにつられるように食卓の方へ進むと、いつも通り僕の帰りに会わせたように温かい食事を作るハルの姿があった。扉を開けた音にこちらを振り返り、ハルは笑った。
「おかえりなさいませ、ロイさま。」
「――――ただいま。」
「お食事、召し上がりますか?」
「うん。」
「良かった。今日は特に美味しくできた気がするので……ロイさまに食べて欲しかったんです。」
――――ハルも追及もせず、責めもせず、ただ僕を受け入れて……こうして、温かい食事を作って待っていてくれた。
――――何も言わないのは、それも「どうせ興味がないからだろう?」「僕のことなんて、どうでもいいんだろう?」と……また、ひねくれた考え方を以前の僕ならしていたと思う。けれど今の僕は……「僕を信じているから何も言わないんだ」と思える。
――――僕を変えたのは、なんだろう。
……それはきっと一つじゃない。
姉さんと、父さんと、母さんとハルと……、義兄さん、マスター、あのチビ……、それにダミアンさんも……研究所にいたみんな……そして――――エミリー。
人と関わって、すれ違って傷ついて、思い通りに行かなくて……イライラして……疎ましくて……でも、だから変化したんだ。僕はあの頃の自分を許せない、汚い、死にたいと思っていた僕とは違う……そんな苦い過去すらも僕を作る味になったんだ。
それもまた……悪くないと、そう思いながら……ハルが出してくれた、手間暇をかけて煮込んだ料理をスプーンで口に運んだ。
それは温かくて、柔らかくて、じんわりと僕に染み入った。