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【進撃の巨人】片翼のきみと

第178章 羽化





「………僕が見つけたのは、老紳士が1人で営む……バーなんだけど。」



「バー?」



「………古い、でも異空間みたいに俗世とかけはなれたみたいな……自分と向き合える場所。」



「―――素敵ね……。」



「僕も母さんがお酒を飲むのか飲まないかも、知らない。どんな味が好きで、何を思ってるのかも……正直あんまり、知らない。」



「……………。」





母さんは何も言わなかった。

僕がエミリーに買ってこさせた薬のことを母さんは知ってるはずで。エミリーが膨大な薬の種類の中で、薬名だけで的確に効能まで結び付けられないはずだ。

――――だからきっとエミリーに何か伝えたのは、母さんで………。家に帰れば、追及されるのかもしれないと思うと、それも足が遠のく理由だった。

でも……母さんは僕をきっと心配して家に足を運び、僕が戻った嬉しさから僕のところに駆けて来た。

そして――――……僕のことを知りたいと言う。





「だから知ろうと思う。――――今度、誘うよ。一緒に行こう。」



「――――ええ………!楽しみに……してるわ……!」



「――――それまでにちゃんとけじめはつける。」





母さんはまた少し驚いた顔をしてから、安心したように柔らかな口調で言った。





「………ナナと、エミリーのことね?」



「――――うん。」



「――――あなたの想いを、話せば伝わるわ。」



「………うん。」





母さんは僕に歩み寄ってきて、その白い手を僕の頬に伸ばした。でもその手は少しだけ躊躇した動きを見せて……母さんも僕と親子でいられなかった時間を埋めようとしていて……でもどうしていいかわからなくて……手探りでかっこ悪く……それでも歩み寄ろうとしているんだと……だから僕がどこかに『連れて行く』と言ったことに対して……同じように歩み寄る姿勢を見せたことに、嬉しい涙を流したんだと――――……






僕はようやく、涙の意味を理解した。








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