第177章 勲章授与式
エレンがその部屋を飛び出して行って、私は床に座り込んだまま、エレンの言った言葉や態度を組み合わせながら……エレンの身に何が起きたのかを考えていた。
「―――――おいナナ。」
「えっ、あっ……はい、ごめんなさい………。」
不機嫌なリヴァイ兵士長の声に、そうだここから出てみんなに合流しないと、と床から起き上がった。
「―――エレンのは、体調不良か?」
「……いえ、始祖の巨人の力で……何かを見たんだと思います。グリシャ・イェーガーの記憶とはまた違う何かを……。心が、心配です……。」
「――――……確かに様子がおかしかったからな。」
「はい……。」
私が心配のあまり俯いて黙ったからか、リヴァイ兵士長がカツ、と一歩私に歩み寄った。ぐずぐずしてちゃダメだと思ってすぐに顔を上げてリヴァイ兵士長の横を通りすぎようと歩を進める。
「すみません、行きましょう。」
目も合わせずに扉の方へ視線を送って一歩踏み出したけれど、彼の横を通り過ぎようとした私の腕をその手が、強く掴んだ。
「―――――血が出てる。」
「……え?」
指摘されて気付いた。
確かに僅かに血の味がする。
エレンの歯が当たって唇が切れたのか。
「本当だ………。」
指で触れてみると、確かに少しの鮮血が指に付着した。何でもないことだとペロリと舌で血を舐めとったのだけど、それで見逃してもらえるはずもなくて、瞬きをする間もなく……その唇が塞がれる。
「――――リヴァ…兵士、ちょ…っ……!」
兵服を着てるのに。
王宮なのに。
リヴァイさんは昔から、都合のいい時だけ『わきまえろ』って言うくせに……自分はこうやってすぐに一線を越えてくる。
――――心臓がもたない……。
身を捩って抵抗してみても、力で敵うはずがなくてどうしても捕われる。