第177章 勲章授与式
「――――ナナ……?」
気付けば私の目から涙がこぼれていて、うかつにも私がエレンを落ち着かせるためにこうしているはずなのに、エレンを心配させてしまった。
「………ごめん……、想像したら……、私も私が、怖い。………エレンの気持ち、ちょっとだけかもしれないけど……、わかった………。」
「――――俺はお前が全然怖くない。」
「…………。」
私がエレンにかけた言葉を、エレンはそのまま私に返した。その顔は少し、落ち着きを取り戻したように薄く笑みをたたえていた。
「………嘘。怒ると怖いよ?私だって。」
「―――怖くねぇよ、全然。こんなに小さくて、こんなに非力で………。」
――――ま、ずい……。
ぎくりとした。
エレンの表情が怯えから………、いつものエレンに戻って……この体勢で、僅かにその目に欲の色が見える。案の定エレンは私の両手首を掴んで床に張り付けた。
「――――ちょ…っ……、エレン。もう大丈夫なら、みんな心配してるから戻ろう?」
いつもなら毅然と、異性の表情など一切見せずに上官として振る舞えるのに……目じりの涙が流れた場所がひり、と痛んで……エレンに押さえつけられている事への動揺が、隠せない。
「――――エルヴィン団長はもういない。」
「………でもずっと愛してる。」
「――――ちょっとぐらい俺を見てよ。」
「――――あなたは弟みたいなものだから。そんな目で見たことはないし、これからも見ない。」
「………なにがずっと愛してる、だよ。エルヴィン団長が亡くなって間もないのに、兵長の部屋に通ってること、知ってる。」
びく、と体が震えた。
――――けど、だからなんだ。
いっそ軽蔑されてしまえば、エレンの中の淡い恋心なんて消し去ってしまえると思った。