第177章 勲章授与式
「―――人を殺しまくっても……?」
「―――エレン……辛い何かを見たの……?」
「―――罪のない人間まで、踏みにじって―――……っ……命の重さなんてわからなくなって……!でも、俺は俺の大事な物を、ミカサを、アルミンを……ナナを……!ただ守りたい、それだけなのに……!」
エレンが取り乱し始める。
――――近しい未来、エレンはたくさんの人を殺めるということだろうか。
――――だとしても……それは、エレンに限ったことじゃない。私はエレンの頭を引き寄せて、強く抱いた。
「――――大丈夫エレン。私も同じ。」
「――――……。」
「平和は尊い。人命も尊い。けれど……そんな綺麗ごとだけでこの世界は動いていない。―――私だってもし……大事な人が、愛するあなた達が……危機に晒されたら………人を、殺すかもしれない。」
――――エルヴィンと初めて喧嘩した時だ。
……私は“人を殺す”ことをあたかも当たり前のように発言した、それをリヴァイさんにさせようとしたエルヴィンに初めて怒りをぶつけた。その時にエルヴィンは確かに言っていた。『人の命を奪う事はこれからきっとある。調査兵団にいる限り必要な覚悟だ。』と。
――――ようやく分かったの。
外の世界から晒されているこの危機的状況を以って。そう、強大な文明が私たちを根絶やしにしようと迫り来るかもしれない今この瞬間。
―――例えば私達を脅かすその軍の指揮官を討てば戦争が起こらなくて済むのなら、『私は命を救う医者だ』なんてことは都合よく棚に上げて―――……刃を振り上げて、その人の命を奪う。
――――これが、私たちの生きる世界だから。愛する人を、家族を、仲間を守りたい。
――――なら、戦え。
今までは戦ってきた相手は巨人だった。でもその巨人も結局は人間だった。同じ民族……同胞だった。
まだ戦いは終わってない。相手が他国の人間にすり替わっただけだ。戦え、戦え、戦え……。
戦いと死は切り離せない。
死があるのなら殺す側がいる。
殺される側がいる。
――――殺されたくないなら、戦え。
それはつまり……殺されたくないなら、殺せ。
――――どうやってもその構図が、成り立ってしまう。人を救うためのこの手で、人の命を断つその日はきっと近い。