第177章 勲章授与式
15分くらいはそうしていただろうか、微かに震えていたエレンの体が少し落ち着いてきたように感じる。そう言えばこんなに長くエレンに抱きしめられたことはなくて……エレンの未成熟で青々しい若さあふれる匂いが私の鼻をかすめる。
「――――俺は………化け物………。」
ぼそりとエレンが呟いた。
「――――エレン……?」
「――――生きていちゃ、いけない……。死なせてしまう……!殺して、しまう……!」
――――やっぱり何かを見たのか、思い出したのか……。エレンが話さない以上は聞き出さない。ただ、ずっとその背を撫で続ける。
「――――エレンが生きていてくれて、私は嬉しいよ。」
「――――俺が、殺すのは………。――――俺を、殺すのは……。」
「…………。」
エレンは消え入るような小声でブツブツと何かを言っている。どんなに怖いものを見たのだろう。
「――――ナナ……。」
「ん………?」
「――――怖い………。」
「………何が怖い………?」
「――――俺自身が。」
「――――ふふ。」
私が小さく笑うと、初めてエレンがぴく、と反応して体を離した。上体を少し起こして、私を見下ろすその大きな目は、きょとんとしていて……『何を笑ってんだ』という顔をしている。
「あ、ごめんね。私は全然怖くないから。エレンのこと。……だから不思議で。」
私の言葉にエレンは目を見開いて、小さく言葉を続けた。
「―――こんなことになってんのにか。」
「うんまぁ、今までも何回かあったし……。エレンは力加減が苦手だよね。すぐ私を下敷きにする。」
「下敷き……。」
わざと色気の欠片もない言葉で、なんでもないことだと強調する。
エレンは怪訝な顔をしながら、また目を泳がせて……次の言葉を続けた。
「―――俺が人を殺しても怖くないのか。」
「怖くないよ。だってそこには理由があるはずだから。」
エレンの柔らかな黒髪を、いいこいいこ、とふわふわと撫でる。