第177章 勲章授与式
「――――でも最期は、あそこに行ったことを後悔しただろう。」
フロックのその一言で、ヒッチは凍り付いた。
死ぬ間際の絶望を、恐怖を想像してしまったんだろう。――――わざわざそんなことを言う必要はないのに……こいつは本当に、いちいち引っ掻き回す奴だ……。
「……ありがとう、式でヘマしたら笑ってやるから。」
ヒッチは辛そうな表情をなんとか隠して、その場を足早に去った。
「おいフロック……!なんでそんなことを……!」
「でも!誰かが……本当のことを言うべきだろ。」
――――その言葉に、俺は……言い返せなかった。フロックがアルミンのほうに振り返った。アルミンは察した。――――誰も言葉に出さないが、『エルヴィン団長を生き返らせるべきだった。』と思っているということを。
だがアルミンはフロックから目を逸らさず、その話の本質に自ら触れた。
「君が……エルヴィン団長を生き返らせようと必死だったことは知ってる。」
「そうだ……お前じゃなく団長が相応しいと思った。でもそれは俺だけじゃない……みんなだ。報告書を読んだ誰もがそう思った。『なんでエルヴィンじゃないんだ』って……。」
フロックがちらっと目をやった先にいたのは――――……ナナさんだ。相変わらず空を見つめて、エルヴィン団長のことを思い出しているのか、少し悲しい目をしている。
フロックとアルミンの会話に、死に急ぎ野郎が首を突っ込んで来た。そうだ、アルミンを生かせと頑なに言い張ったのはエレンだ。
「―――おいフロック、お前がアルミンの何を知ってるって言うんだ?言ってみろよ。」
「知らないな。俺は幼馴染じゃないし、仲良しでもないから……。でも何でアルミンが選ばれたかはわかる。お前ら2人とリヴァイ兵長が……私情に流され注射薬を私物化し、合理性に欠ける判断を下したからだ。要は大事なものを捨てることができなかったからだろ?」
――――フロックの言い分はわかる。そう思っても仕方ない。
……実際俺だって……エルヴィン団長のほうが良かったんじゃないかと……思ったから……。