第177章 勲章授与式
勲章授与のために初めて足を踏み入れた王宮は、想像よりも簡素だった。もっとゴテゴテと装飾がついていたりなんかして、権力をまざまざと見せつけるようなつくりかと思っていた。
――――これもヒストリアの意向か?
牛飼いの女神さまは、慎ましく謙虚で民から愛されている女王だからな。
「ん?おい、フロック。」
「あ?なんだよジャン。」
授与式を前に、髪型ばっかり気にしてやがるフロックに声をかけた。
「襟元乱れてんぞ。直せよ。女王陛下がループタイをかけて、締めてくれるんだからよ。」
「……あ、ああ。そうか……。」
なんでもないやりとりをしていると、見覚えのある顔が俺達に話しかけてきた。
「やぁ、壁の英雄達よ。」
「……ヒッチ。来てたのか。」
「あんた達が勲章もらうの見に来たんだよ。一応私も政変の立役者の一人なんだからね。」
「そうか……。」
いつも通り振る舞うヒッチだが、どこかその表情は暗い。
――――当たり前だ。
こいつはマルロの事が好きだった。……あんなオカッパのどこがいいのか、未だに理解には苦しむが。
「……マルロは、最期まで勇敢だったよ。」
「……うん。」
「そうだろフロック?話してやれ。」
最も側でマルロを見ていたであろうフロックに話を振ると、フロックは言葉を選びながらもヒッチにあの日の事を話した。
「マルロ・フロイデンベルクは俺と同じ急募入団の新兵で……その中でも俺達をよくまとめてくれた。……現場は絶望的で調査兵団は絶滅寸前まで追い詰められた。みんな怖気づいてどうにもならなかった時もあいつだけは仲間を鼓舞し続けた。」
「……へぇ。」
「あいつはすごい奴だったよ。」
「知ってる……。だから……私の言うことなんて聞かないんだろうね。」
ヒッチは一点を見つめて、マルロを思い出しながらだろう、ぽつりと呟いた。