第176章 処
「結論から言うが、俺は別にお前と結婚したいわけじゃねぇ。」
「――――はい。」
「――――そもそも結婚だの妻だの、そういったものは俺には想像すらつかねぇからな。」
「――――はい。」
「――――ガキも欲しいと思ったことはねぇし、“幸せな家庭”を築こうなんて思ったことはない。」
「………はい………。」
――――リヴァイさんは、物ごころついた時からケニーさんに“強くなる”ことだけを叩き込まれて、人があっけなく死ぬ、気を抜けば殺されるような暴力渦巻く地下街で生きて来た。
そんな彼にとって結婚や家庭というものが想像すらできないものであるというのは、理解できた。
――――なら本当に兵舎を出る理由は、心置きなく抱きたい、放したくないからということだったのだろうか。
「………色気づいてきやがったクソガキどもの中にお前を置いておきたくない。」
「―――それはエレンのことですか………?」
「エレンもだが、ジャンもフロックもだ。その他の野郎どもも……どいつもこいつもお前を見る目が気に食わねぇ。」
「………気にしすぎですよ……。」
「………病気のことも集団生活ならいずれ隠しにくくなってくるだろう。」
「それは……たしかに………。」
「――――……あとは………。」
「まだ口実を考えているんですか?」
私が核心をつくと、リヴァイさんの目が若干不機嫌に細められた。『生意気だな』と思っている顔だ。
リヴァイさんの頬を両手で包んで、今度こそ本音を引き出そうと試みる。上目使いでその目を覗き込んで、心の内に届けるように囁く。
「――――教えて、リヴァイさんの心の中………建前じゃない、本当の心が知りたい。」
「女の色仕掛けまでエルヴィンから学んだか。」
「――――そうです。ねぇ、教えて。知りたい、ちゃんと。」
意地悪にも負けずにリヴァイさんの目を再び覗き込んで顔を引き寄せると、僅かに目線を反らしてリヴァイさんは舌打ちをした。