第176章 処
「――――悪いが、まだ時期じゃなかったようだ。手間をかけた。」
「えっ、まだもう一軒お見せしたいところが……!」
「また時期になってから訪ねる。――――来いナナ、帰るぞ。」
「――――え、あっ……。」
「えぇっ、旦那、絶対ですよ!!絶対また来てくださいよぉ!」
「ああ。」
「あっ、あのっ、ご、ごめんなさい……!」
リヴァイさんは早々に内覧をやめて、はぁあ、とため息をつく貸家の男性を置き去りにして私の腕を引いてその家を出た。私の態度が良くなかったんだと、しまった……と反省するものの、でもどうしても頭の中は混沌としていて……、黙ったまま、リヴァイさんに手を引かれて兵舎に戻った。
――――もちろん自室に返してもらえるはずはなく、当たり前のようにリヴァイさんの部屋に連れられて、部屋に入った途端にリヴァイさんは鍵をかけた。ガチャリ、と鳴った金属音にびくっと体を震わせつつ、壁に寄って気まずく目を伏せる。
ゆっくりとリヴァイさんが私の方に向き直る。
その目を見なくちゃいけないのに、どうしても顔が上げられない。申し訳なくて……、怖くて……。
「――――そんなに嫌か?」
小さく発せられたリヴァイさんの言葉に、思わず顔を上げた。それだけは違う。
決してあなたと過ごすことが嫌なんじゃない。
私の問題で。
私が自分の気持ちを整理しきれていないだけで。
「ちがっ………!」
「じゃあ何を考えてた?まるで心ここにあらず、だったよな。」
「それは………。」
「言いたくないならいいと言ってやりたいが、それだと話が進まねぇ。」
「………はい……。」
気遣ってくれようとしている。
相変わらず私たちはコミュニケーションが下手で……、少しずつ分かり合えるようになっていたのに、3年と言う月日はまた私達を不器用にすれ違わせるには十分だったみたいだ。
でも、ちゃんと話さなきゃ。
自分の想いを。