第176章 処
「ナナ。」
「は、い……!」
「どうした?気分でも悪いのか?」
いけない、リヴァイさんといるのにエルヴィンのことで頭がいっぱいだった。気付けばリヴァイさんに連れられて、トロスト区の兵舎から10分足らず歩いたところにある一軒家の前まで来ていた。
「いやぁ、綺麗なお連れ様ですねぇ!さすが調査兵団の兵士長が目に止める女性は違うな!」
「中、見せてくれ。」
「はい!ただいま!そんなに古い建物でもないですし、部屋数も多くていい家ですよ!」
中肉中背の、愛層のいい50歳くらいの男性は……貸屋を商いとしている人だろう。
自己紹介をされた気がしたけれど、全然耳に入っていなかった。
その男性は家の鍵を開けて私たちを中に導き入れた。確かに広くて、十分すぎるほどの家。リヴァイさんはこれから先の生活も見越してここを候補に入れたのだろうか。
でも……私には、この広い家を愛情や幸せで満たせる自信がない。だって……私は普通の女性としての幸せよりも、あなたの側で戦いたい。ここで守られるより、死ぬとしても、最後まで側にいたい。
「…………。」
「奥様は料理はお好きですか?ここはキッチンが広いところも魅力的で……。」
「あ、いえ……私は奥様でもないですし……、料理も得意じゃな……く、て……。」
その男性が恐らく気を遣って言った“奥様”という言葉にまた罪悪感が募る。
これからの外の世界からの干渉があるのであろう過酷な日々を、リヴァイさんの横で、ハンジさんとサッシュさんの横で微力ながら戦い続けるなら、エルヴィンに胸を張れる。
――――でも、まるでただの女になって……リヴァイさんに守られて愛でられるだけなのは……自分自身もエルヴィンにも、後ろめたさが否めない。
俯いて考え込む私の頭を、リヴァイさんがぽん、と手を置いてため息をついた。