第176章 処
「―――――う………。」
「――――まぁその件はあとでたっぷり尋問するとして、だ。ナナと俺で兵舎の近くに部屋を借りてそこに住む。その部屋の下見に行く。」
「えぇぇっ?!?!」
ハンジさんの反応から、リヴァイさんはハンジさんにも相談していない独断だったのかと知る。そしてもう部屋の目途をつけているなんて仕事が早すぎる。
何をそんなに性急に……これもまた、“最期かもしれない日”を生きていることが理由なのだろうか。
「それはなんで?」
「――――察しろよクソメガネ。」
リヴァイさんはふん、と鼻を鳴らしてハンジさんから目を逸らした。
「あぁ、誰にも邪魔されない愛の巣ってわけ?笑えるね!人類最強がついに納まるところに納まるってわけか!まぁ別に問題ないよ。実際随分編入者も増えて、妻帯者なんかは自分の家から兵舎に通う兵士も出て来てたしね。」
「――――………。」
そう、その人たちは全員……亡くなった……。
妻や子供を残して……。
そんな仄かな影が心に刺したけれど、ハンジさんの明るい声でその影も掃われていく。
「ナナがそれに同意するなら、止めないよ。さて!!何食べよっか?」
私たちはトロスト区内の小さなレストランで昼食を取った。久しぶりに少し、“食欲”というものを思い出した。ほんの少しだけど、まだ全然食べれる量は多くないけど、美味しいと、感じることができた。
食事を終えてからハンジさんと別れて、リヴァイさんと2人になる。
まだ少し気まずい。
だって私は、一緒の部屋に住むという意味を測りかねていて……もし、もし結婚するとかそういう意志がリヴァイさんにあるのだとしたら……それだけは、待って欲しい……。
エルヴィンから贈られた純白のヴェールとコームを思い出して、胸が苦しくなる。あの時の『誓いの指輪で君を縛ることはしない。けれど……こうして純白のヴェールに包まれて俺を見上げる君を、一度見てみたかった。』と言ったエルヴィンは……私がそれを身に着けて生涯の愛を誓ってその薬指に一生を縛る環を通す瞬間を夢見ていた……それに応えたほうが良かったのか……なんて、もう今さらどうしようもないことが、頭を過る。