第176章 処
「――――あなた方を誇りに思います。同じ壁に生きる者として。または……働く者として。」
「………どうも………。」
ピュレの言葉に僅かに照れ笑いするハンジを、窓辺から戻って円卓の俺の横に座ったナナが嬉しそうに目を細めて見ている。
ハンジがあの王政転覆の一件で引き込んだ民衆の力は大きい。リーブス商会を始めとしたトロスト区の住民、そしてこのピュレやジルも。この機にその信頼をもっと大きく強く醸成しておくことは、今後外敵と交戦やらの厄介事が起きた時に有効だ。
外敵に対する対応で必ず内部で民衆と兵団の間に隔たりが出来る。下手すりゃ内乱に陥ることだってありうる。それを少しでも可能性を抑えられるように今動いておくのは賢明だ。
「―――あぁ……そうだな、なら今度は調査兵団を担いで記事を書くといい。」
「わぁ、いいですね。これからもっと入団希望者も増えて欲しいですしね。」
俺の言葉にナナがふふ、と笑いつつ紅茶に添えてあったクッキーを小さく齧った。ナナが何か食っているところを見ると安心する。
もっと食え、と、そっと俺の皿からクッキーをナナの紅茶のソーサーに移した。ナナがちらりと俺の方を見て、小さく嬉しそうに笑う。
「―――――……ハンジ団長、リヴァイ兵士長……。私たちは、これからどうなります?」
そのピュレの言葉は、まるで真実を知った民衆を代表して述べられたかのように、重く聞こえた。
「私達が巨人を恐れ、憎み、どうかこの世から消えて無くなれと願ったのと同じように……世界中の人々が我々を人ではなく有害な化け物とみなした、その結果……あの地獄が繰り返されるのだとしたら………。」
ピュレが言葉を噤んだその時、ナナも、ジルもまた――――……悲しい目で俯いた。
「我々が死滅するまで地獄は……終わらない………。」