第173章 情炎② ※
――――――――――――――――――
途中からもう、記憶も朧げだ。
断片的に、リヴァイさんが眉間に皺を寄せてこの上なく切なそうに目を細めながら何度も私の頬や髪に触れてくれたその手の温かさと、
口の中いっぱいに……喉の奥までリヴァイさんで埋め尽くされて、涙で滲む視界の奥に愉悦に浸った妖艶な表情で私を見下ろしているリヴァイさんの姿と、
耳元で何度も何度も私の名前を呼ぶその掠れた声と―――――……
彼の耳の後ろに顔を埋めた時の、石鹸の清純な香りに交じる汗と雄のフェロモンの匂い――――……私をくらくらさせる、理性を崩壊させるようなその匂い。
その数々が、ぼんやりと思い起される。
何度も上り詰めては意識がブツッと遮断され、瞼が強制的に閉じられるような感覚を味わった。
そしてその中で――――………エルヴィンに、会った。
何もない真っ白な空間。
――――いや違う。
よく目をこらしてみると、そこは―――――青空と木々の葉の間から零れる木漏れ日。クローバーの花が咲いている。
ああ、あの日のあの丘だ。
そこに、私の誇りである自由の翼を背負った、愛してやまない彼の姿がある。
でも、こちらを向いてくれない。
エルヴィンは遠くの空を見つめたまま、こちらを向かない。
私はなんとかこっちを向いて欲しくて、手を伸ばす。
でも一向にその距離は縮まらない。
『エルヴィン………!エルヴィン、私、ここにいるよ……!』
『―――――………。』
『そっちに私も行きたい……けど………、それをあなたは望まないって、私は私の意志でこれからも生きてくって、決めたから………!』
『―――――………。』
『――――ねぇ、こっち、向いて………。』